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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)361号 判決 1957年6月11日

東京都品川区小山五丁目六八番地

上告人

倉田満

右訴訟代理人弁護士

岩渕佐市

同都中央区日本橋室町一丁目六番地四

被上告人

山本保全合資会社

右代表者無限責任社員

山本徳治郎

同都品川区小山三丁目九番地

被上告人

坪井喜平治

同所同番地

被上告人

重盛又雄

同所同番地

被上告人

守随誠

右四名訴訟代理人弁護士

恒次史朗

右当事者間の借地引渡請求事件について、東京高等裁判所が昭和三〇年一月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩渕佐市の上告理由について。

原審認定の事実によれば、上告人が被上告会社に対し都市計画による区画整理施行区域内の本件宅地の賃借申入をしたのは昭和二一年一〇月であつて、所論の昭和二一年勅令第三八九号は同年八月一五日公布即日施行されているのであるから、右賃借申入当時においては同勅令による建築許可を要し、処理法二条一項は右の許可なき賃借申出の効力を否定する趣旨と解すべきである。従つて建築許可を欠く賃借申出の効力を否定した原判決は結局において正当に帰するから第一点の所論は理由がない。

また上告人が原審口頭弁論において第二点所論のような主張をしたことは記録上認められないから原判決には所論の違法はない。のみならず右主張は本件賃借申入当時未施行の戦災復興土地区画整理施行地区内建築制限令一条を前提とするものであるから第二点の所論も理由がない。(論旨が昭和二一年勅令第三八九号一条の条文として引用するものは、同年八月一五日公布の時の原形ではなくして、その後昭和二四年一一月一日政令第三六〇号及び昭和二五年九月一日政令第二八二号によつて改正されたものである。)

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

昭和三〇年(オ)第三六一号

上告人 倉田

被上告人 山本保全合資会社

外三名

上告代理人岩渕佐市の上告理由

第一点 原審判決ハ擬律の錯誤を存す。

第一審判決を調査するニ理由二の(ロ)項ニ於て

前略、当時本件宅地の上ニ建物を建築するに付てハ都市計画法第十一条の二及び同法施行令第十一条の二の規定ニより東京都知事の許可か必要とされたのであるからこの許可を受け又は現に許可申請手続を完了した上許可のあることを条件として賃借の申出てがなされたものでない限り原告の本件宅地ニ対する賃借の申出ハその条件を欠き效力を生じ得ないものであるところ云々として上告人の請求を斥けたが、

都市計画法施行令第十一条の二の規定ニよると、但し命令を以て許可を要せすと規定した時ハ此限ニあらすとして原則的ニハ許可を必要としてあるが例外として此許可を必要とせない場合を予想してある。

而して昭和二十一年八月十五日勅令第三八九号戦災復興土地区画整理施行区内建築制限令第一条ニよると特別都市計画法の土地区画整理の施行地区が五年以内ニ都市計画事業が執行される予定のものとして建設大臣の指定する区域ニ於ける都市計画法第十一条、第十一条の二の規定ニよる建設物に関する制限は同法施行令第十一条、第十一条の二の規定ニかゝわらずこの勅令の定むる処ニよる

として戦災地に対してハ全面的な都市計画法第十一条、第十一条の二、同施行令第十一条、第十一条の二の適用を除外した、則ち俗称バラツク令なる勅令あることを看過した判決で明かニ擬律の錯誤である。

蓋し都市計画法ハ通常の場合ニ適用すべく制定されたものであるが戦時非常時に際してハ東京都内のみでも空襲其他強制破壊、焼失等に依り数十万戸の建物を喪失し数百万の住民が住むニ家なく風雨に曝され道路に彷徨しある場合ニ際してハ応急策として都市計画法等平時立法を其儘施行するハ不条理の極ニして茲ニ前記勅令の公布を見たものである。

本件上告人の借地申入れは昭和二十一年十月初めで右勅令公布後間もなきもので当然借地申入れニ許可を要せさるものなるに拘らず不用意ニも第一審判決ハ右勅令を無視して上告人の請求を拒否したもので不法であるのニ原審も又第一審判決を是認して再び擬律の錯誤をなしたものである。

第二点 原審判決ニハ理由を付せさる違法あり。

上告人は原審ニ於て前述昭和二十一年勅令第三八九号戦災復興土地区画整理施行区域内建築制限令ニ依り戦災地ニ於てハ五年以内ニ都市計画事業が執行される予定のものニ非る限り都市計画法第十一条、第十一条の二の規定並ニ同施行令の規定は適用かなく、単ニ五年以内ニ整理施行の予定あるものハ該勅令の制限ニ従ふを以て足ることを強調したか此点ニ関する原審の判決理由ハ何等ふるゝことなきハ判決ニ理由を附せぬ不法あるものである。

或ハ原審ハ訴訟速進の為めニ此点ニ対する検討を避たものか、訴訟速進は上告人も希望する処なるも原審の如き拙速主義は却て訴訟の遅延を招来する結果となると思ふ。寧ろ事実審の終審として、当事者の納得の行く迄充分審理を尽されたなら本件上告の如きハ之を避け得べかりしものである。

以上

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